書庫1

□副長さん家の諸事情 デート編(土方)
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何も言葉にはならなかったらしく、一瞬開きかけた口を閉じて綻ばせ、男はもどかしそうに改札を乗り越えてこちらに駆けてくる。全速力、駅員の声も聞こえないらしい。
土方は胸中に生まれた深い歓喜と安堵に身を委ねた。そして己の内にあるものを分け与えるように軽く手を開くのだ。
そこにぶつかるように突っ込んでくる、男の体の硬い感触。

「土方…!」

感極まった男の声ががぶつかる耳朶が熱い。うとりと笑って、土方はその手を捕まえ指をからめ――――

ぐい、と無造作に肘とは逆の方向に、捻り上げた。

「攘夷浪士を捕まえるのが俺の本能だ」
「…あ、?」

ガション、と男の手首にかけられた銀のワッパ。ここ数ヶ月涙を飲んで袖の中で眠っていた手錠はようやく訪れた出番に心なしか誇らしげだ。床に押し倒した男の背中、後ろ手に回したその手首にキラリと光る銀色に土方は最高にいい笑顔を浮かべる。

「なのになんで毎回毎回、何もしねェで見送らなくちゃいけねェんだ?お前と一緒にいちゃいけねェなんて、そんなの俺は耐えられねェ…!」
「ま……っ、待てお前、先刻は全然雰囲気がちが…っ」
「テロリストならサツの言うこと信用すんなよ、この箱入り息子が」

ペッと吐き捨てる土方は先刻までのしおらしさなどどこ吹く風という調子で言うくせに、それからとろりととろけそうな声で、組み伏せた高杉の耳元をくすぐっては甘く囁くのだ。

「まあ、ウチには牢(ハコ)は沢山余ってるからよォ…ウチの箱入り婿になってくれや」

―――――――それは結婚しようとかそういう意味でいいんですか?

ようやく自分の周囲に出没していたテロリストを捕まえてご満悦の土方は、不用意なこの一言ですっかり高杉がプロポーズされた気になってしまうとは、夢にも思わず。

無駄にやる気を出した高杉があっさりと脱獄し、私宅に住み着いてから深い後悔をする羽目になったのである。
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