書庫1

□副長さん家の諸事情 デート編(土方)
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行かないで欲しい。置いて行かないで欲しい。
何度も胸中で積み重ねた言葉の死骸がわんわんと情けない声で、背筋を揺り動かすのだ。

どうかおいていかないで。
何で俺たちが離れなくちゃいけないんだと。お前ほ求めるのは、きっと俺の本能なのに!

「高杉…!」

去っていく背中に抑えきれずに喉が叫んでいた。泣き出しそうな声に、周囲を歩いていく人並みがぎょっとしたように一瞬動作を止めて土方を振り返る。
土方の目には、改札の向こうのたった一人しか見えていない。男の草履の足が止まった。蝶の舞う袖が翻るのがまるでスローモーションのように見える。
珍しく目を丸くした男に、土方は叫ぶのだ。

「もうで我慢できねェ…!」

何故お前と一緒にいてはいけないのか。
こんなにもこの指が、腕が、体が、心がお前を求めているのに。
この体にしみついた本能が、お前だけを求めているのに。

「一緒に、暮らそう…!」

肺の内から思いの丈を絞り出すように叫べば、改札の向こうでで男は泣き笑いのような顔をした。
初めて見る顔だと思った。
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