書庫1

□副長さん家の諸事情 デート編(土方)
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「じゃあなァ」

軽く手を上げた男の指を反射的に握ってしまいそうになって、土方は疼いた右手でそっと己の袖を掴んだ。
唇を引き結んでいないと余計な事を言ってしまいそうで怖い。
自然と仏頂面になった己の頬に節のある手が触れる。体温の低い自分よりもほんの少し温かい、血の通った手だった。
視線をずらせば、困ったように眉尻を一寸さげた隻眼とぶつかる。

「そんな顔すんな」

またすぐに連絡を寄越す。そう口角を上げる男の顔にも僅か垣間見える名残惜しさがちゃんとあって、土方は己のそれを誤魔化しきれずそっと男の手のひらに擦り寄るのだ。
仕方がないのだ。屯所に最寄りの駅まで、高杉は行くことは出来ない。
この体温はいつだって離れがたい。いつ連絡をくれるかなんて、みっともないことは聞きたくないのに。
高杉が連絡を寄越さなければ、こちらからは何のつなぎのつけようもないのだ。
思い返せばなお焦燥が腹を焦がす。分かっていたことだと幾ら自分に言い含めようとしたって、寂しさばかりが疼くのだ。

頬を暖めていた体温がするりと離れていって、わずかに温まっていた頬から一息に温度が抜けていってしまう。奪われる熱に目を伏せると、男が喉を鳴らす気配がした。視界の端にくるぶしが翻る。
女物の派手な単。茶色がかった黒い髪に巻かれた白い包帯が土方の視界に揺らめいた。

何故この男と己が離れなくてはいけないのだ―――――――
うずく右手が泣きわめいては訴えている。視線を上げたらきけたらきっと呼びとめてしまう。そう分かっていても、ゆっくりと伏せた顔は上がり改札を通り抜けていく男の背中に喉が震えた。
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