書庫1

□副長さん家の諸事情 デート編(高杉)
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次第に早足になるその姿に、高杉が軽く手を広げた瞬間だった。
駆け足どころか、全力疾走とまでにスピード上げた細い体がくるりと捻られ、

右足を軸におそろしく腰の入った強烈な回し蹴りをこめかみから斜めにくらい、高杉は次の瞬間コンコースの床に跳ね飛ばされていた。
首がぐらぐら揺れている。もげていてもおかしくはない一撃だった。
しかしそれで仕舞ではなかったらしい。
コンコースに這いつくばった背にどすんと体重を掛けられて高杉は肺から潰れた息を吐いた。

「て、め、えは……!」

掠れ低く唸る声は、照れていたわけではない。煮えたぎるような怒気を込めた声と共に、阿児を掬いあげられるように固められて高杉は息を詰まらせる。

「自分の立場が分かってんのかァ!?指名!手配!犯が!!駅のド真ん中で『一緒に住みたい』とか大声上げて目立ってどうするこの世間知らずの坊ちゃんがぁああああ!!」
「――――!!―――――――ッ!!」

見事なキャメルクラッチを極められ息も絶え絶え、ギブとすらまともに言えずにただ両手で床バシバシ叩くことしかできなかった高杉は内心で叫ぶ。

(お前の方が余程目立ってるじゃねェか…!)

コンコースを全力疾走した上に回し蹴りにキャメルクラッチまで決めた土方の方がずっと目立っているに決まっているのだが。
がなりたてる土方の声が跳ねて不規則に掠れては裏返っていたのはきっと、彼が恥ずかしがったからだろうから。

今回のは怒られはしたが満更でもなかったらしい―――――――次は人のいないところで言おう、と思う懲りない高杉の脳内は、酸欠故の多幸感でネジが外れていたに違いなかった。
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