書庫1

□副長さん家の諸事情 デート編(高杉)
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けれど今日の寂しさは、それだけでは抑えきれなかった。

見る間に細い背中は、改札の外へと流されて行ってしまう。
次に会えるのはいつか分からない。いつだって逢えるわけではないのだ。
それぞれ守らなければならない立場がある。寄り添うなんてことは出来ないと思っていた。
口に出したって、土方はそれをきっと許さない。
ただそんな関係だから―――――――いつ誰に斬られるかも分からない自分たちだからこそ、いつ傍らからもぎ取られて仕舞になるかも分からない関係だからこそ、できる限り、近くにいたい。

「なあ!」

突然上がった大声に、周囲を歩いていた人間がぎょっとしたように振り返った。
改札を通り抜けた黒い背中がひくりと揺れるのが見える。
そこに高杉は、なおも呼びかけている。

「もう離れたくねェ…!」

周囲でどよめきにも似た溜息の渦が広がる。黒い背中はゆっくりと振り向いた。灰青色をした青年の睛が丸く見開かれる。
そんなに驚かなくたっていいじゃねェか、とほろ苦く泣き笑いのような顔で、高杉は叫んだ。

「一緒に暮らそうぜ?」

ボッとその瞬間に、振り向いた青年の顔が真っ赤に染まる。
熟れた苺のようになった頬。まるで泣くのを堪えるかのように軽く俯いたかと思うと、土方は今しがた懐に仕舞ったばかりのICカードで改札を開き戻ってくる―――――――戻って、くる。高杉の元へ!
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