書庫1

□副長さん家の諸事情 デート編(高杉)
1ページ/4ページ

「じゃあな」

あっさりと傍らにあった体が離れていってしまうのを、高杉は名残惜しげに見やった。混み合った休日の駅構内、着流しが向かうのは改札だ。
真撰組屯所の最寄り駅である。高杉はこれからまた山手線から更に数駅乗り継がなければならない。
本当は土方は電車を降りる時にも同じことを言ったのだ。あっさりと上げられた手を捕まえて、一緒に下りてきてしまった高杉だった。
コンコースは今の時間、帰路に着く人波が緩やかに流れゆく。まだラッシュになるような時間ではないが、ぴくりとも動かず立ち竦んだままの高杉を邪魔そうにちらちらと眺めては後方へと過ぎてゆく。
高杉の目はただ、遠ざかっていく男の背中だけを見つめていた。

あっさりと翻される背中が、恨めしい。
うっかりと道端に転がっていたところを拾われて、うっかり敵方の男に惚れて早数カ月。
自分が何かする度に仕方がなさそうに、だがおかしそうに笑むようになった表情にますます惚れて虜になって、決死の思いで口説きに口説き、お付き合いを始めてからやっと一カ月。
先だってようやく体の関係も出来たというのに、土方にはちっとも変化はない。
いつだって平然として、いつだって冷静で、高杉がやきもきしたりあせったりしているというのに、全くもって平常心のまま。クールなポーズを崩したりしない。
デートの時だって高杉は白くてほっそりとした指を握るだけで死んでしまいそうになるほどアップアップしているのに。

土方と自分の間には、抱いている感情に温度差がありすぎるのだ。
それを思うたびに高杉はどうしようもなく悲しくなってしまう。
確かに告白したのも急きたてているのも自分だ。言葉にするまで高杉の気持ちなんてちっとも気が付いていなかった土方にしてみたら、たまたま道端に落ちていたものを拾ったら懐かれ惚れられ、おまけに追いかけ回されて。たまったものではなかっただろう。
けれどそんな男に体を許したのだから、きっと土方も高杉のことを少しは好いてくれているのだ、と。
いつも高杉はこの去り際のこの離れ難さを恨めしく思いながら、そう己を慰めてきたのである。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ