書庫1

□俺が殺して埋めたから
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冬の寒い、月の隠れた晩に。
雲の垂れ込めた、今にも凍えてしまいそうな風が吹く夜に。




――――晋助が、死んだ。









俺が殺して埋めたから








『晋助』という名のメダカと土方が顔を突き合わせのは、未だ夏の盛り、あの男、晋助の名の基になった男が好む祭りの季節のことだった。

土方の私宅に当たり前のようにやってきた男は、土方に『晋助』ともう一匹が入っている水の詰まった袋を突き出すと、横柄な声で「やる」と言った。
男の傲慢で横柄な言い方や行動には閉口しつつもすっかりと慣れっこになっていた土方とても、いきなり水の詰まっ袋(どうみても夜店で使っている安っぽい物だ)を突きつけられては文句を言わざるを得ない。

「おい」
「なんだ」

不機嫌そうな土方の声も気にした風もなく、男が聞き返す。土方の不機嫌そうな、地を這うような声に呼びかけられでもしたら、大抵の人形のは萎縮して自分が何か失敗をしたのではないかと振り返るというのに、この男はちっとも、そう欠片程も萎縮したようなところはない。
分かっていても、腹は立った。

「これはなんだ」
「てめェ、目が悪くなったか」
「…このメダカはなんだ」

平然と切り返されて、脳の血管が切れるかと思った土方だ。
萎縮どころか、ニヤニヤとして男は土方を眺めている。ここで怒れば、男のペースにハマると分かっているから、怒りようが無い。声を荒げたら負けである。だがそう思ってイライラしていることが既に男の術中であるのだ、ということも確かだからなおも腹が立つのだ。
土方は決して神経質な性質ではないとしても、神経というものは鎮めさせるよりも荒立てさせるほうがずっとずっと易しいのだ。

「夜店に出てたから買ってやった。ありがたく思え」
「どこをどうありがたがればいいんだ」

言いつつも、男がますます押し付けてくるものだから、仕方なく土方はその袋を受け取ることにする。聞かん気が強くて時々びっくりする程短気なこの男のことだ。気まぐれに手を離されたら袋の中で二匹の命は潰れてしまうかもしれない。
ビニールの細い紐を手のひらに食い込ませて、土方は不承不承袋の中を覗き込んだ。真正面を向いた二つの大きな目と視線があって、その間抜けさに思わず気勢が削がれた。
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