書庫1

□おにーさんと拉致デート編
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伊庭は苛立っていた。

土方がもう二ヶ月あまりも登城していない。

伊庭は近衛隊の隊長を務めている男である。仕事場は江戸城だ。勿論真撰組の屯所に赴くことができないわけではないのだが、そちらには沖田が常駐していることもあり、彼を敬遠しているうちに土方に会うのは結局週に一・二度ある土方が登城する際か、テロ対策の協議の時に限られていた。
登城しての報告は、近藤よりも土方の方が来る機会が多いため、それが終わったあとは少し時間ほもらって伊庭が見つけておいた喫茶店で茶を飲むのが定例になっていた。

それなのに、土方が来ない。

報告は近藤がしているようだった。土方はどうしたのかと聞くと、京に長期出張中だと彼は言うが、今高杉などが頻繁に目撃されて隊務が忙しいのは江戸であり、京はむしろ落ち着いているほうなのである。わざわざこの状況に土方を江戸から離すはずがない。そう思うのだけれど、伊庭が何を言って食い下がっても近藤は出張中の一点張りで、それ以上の理由を教えてくれない。
任務中とのことで連絡先も教えられないというのは、何か理由が他にもあるのではないだろうか。
一度不安に思うと、想像が次第に加速するのを伊庭は止めることが出来なかった。
例えば土方が重症であり、それを攘夷志士たちから隠すために情報の規制を行って、出張中にしているのでは…。
そう思うと居ても立っても居られなくなり、伊庭は屯所へと突撃してしまったのである。


夏の終わりに咲いた、最後の薔薇が枯れかけていた。
風邪の冷たい、もう秋の半ばのことであった。
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