書庫1

□守る手、抱く手編
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「…父上、どうかした、の…?」

おずおずと尋ねる目が、不安に揺れていた。
黒目がちのまあるい目の内、映った自分の顔に高杉は舌打ちを止めることは出来なかった。

こひじの話では近藤の名前が一番出てくる。

沖田と山崎くらいまでは顔と名前は一致しているものの、其の他はちんぷんかんぷんの高杉だ。高杉自身覚える気も無いから仕方がない。

近藤は土方の親のようなものだ。

確かに高杉は近藤よりも前に土方に出会っている。
しかし高杉も他の三人も、土方の親にはなれなかった。親になりたかったわけではないし、そのころの時勢もあった。皆生き延びることに精一杯だったし、繋ぎとめておきたいと願ったけれどそれは叶えられることは無かった。

だが―――――土方の近藤に対する感情、否依存といってもよいそれは彼の中で大きな比率を占めている。占めすぎているのだ。
近藤は近藤であるというだけで絶対的な信頼を与えられるのである。
嫉妬だと分かっている。栓の無い事なのかもしれない。過去に遡ることはできないのだからと、そう割り切ろうと思っていたのに土方は過去へと遡ってしまった。
否、それは正しくない。本当に逆行してしまったなら土方の体はボロボロのはずだ。

しかし土方は―――――子供に、何も覚えていない子供に戻って、高杉を無心に。

近藤のように無心に、高杉を信頼したのだ。

勝てた―――――と、そう思った。
これで土方の、こひじの知る父親は自分たちだけだと。
そうどこか暗くもある歓喜すら高杉は覚えたというのに。
独占できると、期間限定と分かっていても、それでも高杉は確かな幸福感を覚えたというのに。

しかしそれでは終わらなかった。

近藤は―――――こひじの中にしっかりとまだ、根付いていたのである。

結局近藤には勝てないのだと、真選組には勝てないのだと、むざむざと見せ付けられたようなものだった。
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