書庫1

□守る手、抱く手編
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機嫌が悪かったとしかいいようがなかったのだ。
その日、高杉は機嫌が悪かった。土方がこひじになって以来、こういう日も珍しい。土方が居るといらついていたかといえばそれは違うのだが、こひじ効果とでもいおうか。気分は大体落ち着いていたし、気に食わないこともあったがそれ以上に幸福感が溢れていた。

だから何故あんなことを言ってしまったのか―――――高杉自身、頭を抱えるしかないのである。

「父上ただいまっ」

きらきらしながら駆け寄ってきたこひじは本当に元気な子供になった。
三歳のころはおっとりとしていたのだが、あのまま成長させていたらそういう子供に育ったのだろうか。きらきらした満面の笑顔で今日あったことを逐一報告してくれるこひじは全く無邪気にしか見えず、土方との間に広がるギャップに高杉は息苦しいものすら覚えるのである。
ふっくらした頬は薄紅色に染まり、しなやかな手足は伸び行く若木を思わせる。
このまま育ったらどんな子供に育つのか、楽しみでもあり、怖くもあるような。
以前の結果からこひじが土方に戻れば土方の記憶をちゃんと取り戻すということを知らなかったら、恐怖の方が勝っていたかもしれない。複雑な感情があるのは変わらない。

「父上…?」

物思いについ沈んでしまっていた高杉の膝の上、こひじは首を捻って父親を見上げていた。
何でもないと高杉は苦笑して白い頬を撫でる。くすぐったそうにこひじは笑って、それからね、と嬉しそうに続けるのだ。

「近藤さんがねっ」

―――――急激に高杉の機嫌は悪化した。

「…近藤の話は止めろ」

突然むっとして語調を変えた高杉をこひじはきょとんと見あげる。
無理も無い。思わず硬い声が出てしまったことに高杉自身も驚いた。
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