書庫1
□お風呂をめぐる騒動編
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「かしこい子供ですよねぇ」
今日は沖田が幾分寛容な気分だったので、ご一緒させてもらえた山崎である。不器用な沖田を近藤が心配したのだ。近藤も不器用仲間なのだが、そこはそれ、経験の違いというやつだ。
少しはにかむように笑うこひじは山崎曰く『天使ちゃん』である。
少し跳ねた髪をくしゃくしゃとかき回してやると、屈託もない笑顔を見せるから構いたくもなるというものだった。
ざぱ、と頭から少しぬるめに調節した湯をかぶせると、きゅ、と目を瞑って犬のように頭を左右に振るのがおかしい。
体も最初のころは山崎が洗ってやろうとしていたのだが、それも出来るから、というから湯気にのぼせるか、逆に体が冷えてしまわない内は好きなようにさせておく二人である。三歳児というものを他に見たことがないから、これが本当に子供なのかどうかという実感は未だに湧かない二人だ。とびきり良い子だ、というのは確かであるが。
「あんな奴らを親にしなくったってねぇ」
複雑な沖田だ。
ただでさえ近藤という壁があるのだ。可愛い弟分を独占したいと思うのに、それは中々難しい。
「変なことを教えられなきゃいいんですけどね」
山崎は別の意味で複雑らしい。確かに高杉なんてのはよほど危なそうだ。攘夷思想を教え込まないというのは彼らと電話ごしに交わした約束だがそれ以外にも相当危ないことを教えられそうな気がする。
蝶よ花よと純粋にこひじを育てたい山崎からすればとおさまはそういう意味でも強敵だ。
ちなみに山崎の頭の中からは、こひじは交渉さえうまく進めば土方に即刻戻るということを失念している。
まぁ、あの様子じゃ大丈夫なんじゃねぇかィ、と肩を並べて湯に浸かりながら言う沖田はそれについては楽観している。
相当高杉はこひじを溺愛しているようで、沖田は高杉に対する印象を多少改めた。それでも気に入らないということは確かだったが!
「そうにぃ、おわたです」
体中を泡だらけにして、こひじが湯船に手をかける。大人の難しい話はわかっていないようだ。沖田は立ち上がって桶を手に取る。大人用の大きな手桶はなみなみと湯を張ると、こひじの手では重すぎて持ち上げることは出来ない。