書庫1
□おじちゃんと一緒編
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車に乗るのは初めてだったのだろう、小さい土方、本人曰くこひじははしゃいだ。
屯所の中には大人用の服しかなかったため、急遽山崎を買出しに生かせて今はちゃんとサイズの合った着物を着せている。
紺の生地にも薄青い帯。
もっと可愛い色合いでも良かったかもしれないが、普段の土方のイメージからすれば寒色か暗色が適当と判断したのだろう。
少し短い裾から白いひざこぞうがちらちらと後部座席で翻っているのを近藤はバックミラーごしに見た。
隣に座った山崎は子供特有の好奇心で次々に飛んでくる質問におろおろしている。
2〜3歳ごろまでの記憶しかなければ、今見えるものは全て珍しいに違いない。そもそも物心がつくのが三歳ごろといわれているから、こひじの中は真っ白なのかもしれなかった。
とはいってもこひじは賢い子供だった。
山崎が危ないからと一度注意したことは決して繰り返さない。運転をしている近藤にシートの後ろからしがみつくこともしなかったし、窓から身を乗り出すこともしない。
ころころと変わる表情は常の仏頂面の土方とはかけ離れていて、山崎は不思議な気分になった。
大人の神経をささくれ立たせることが無い。
子供というものは、もっとかしましいものだと思っていたのだけれど。
「しゃがる…?」
ぼうっとしていると、どうかしたですか?と顔を覗き込んでくる。
舌っ足らずなこひじはまだサ行を上手く発音できない。なんだか微笑ましい気分になって山崎は少しくせのある真っ黒な髪を撫でる。
いつもの土方には絶対出来ないことをしても、こひじはうとりと嬉しそうに眼を細めて笑うだけだった。猫みたいに。
それがあまりにも幸せそうだったから、山崎はふと心中浮かんだ疑問を吐き出すことは出来なかったのだ。
(ねぇ副長、貴方はなんで――――……)