書庫1

□さよなら。編
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自分の手のひらの中に二回りほど小さな手のひらがある。
隣に見えるのは桂だけだけれど、視線を下げればすぐ下に小さな頭が揺れている。
子供の体温はじんわり温度の低い大人の手のひらに馴染んで吸い取られていった。

馴染んでしまった体温。
当たり前のように握った柔らかい小さな手のひらの感覚。

大人二人はそれぞれ子供の手を握って、昨日したように通りを歩いた。


桂は最後まで気乗りしない様子であった。
あれから何も反対はしなかったけれど、起き出したこひじを何気ない様子で抱きしめた手が震えていたのを高杉は見ていて、知らないふりをした。

直視したら自分もきっとそうしただろう。
怪訝そうに「ぢゅらとおさま?」と聞くこひじに、何でもねぇよ、とそう、上手く笑えたかも覚束ない。手放したくないのは同じだった。

こひじは昨日と違って大人しくしていた。
ちまちまと小さい歩幅で必死になって付いてきていた昨日はそれでも興味に負けて、往来を流れていく人の流れを見上げたり、店の前で立ち止まることもあった。
だが、今日は大人ふたりが自分に合わせているよりも、もっと遅い速度で歩くものだから心配になったのだろう。
ちら、と左を見上げたけれど、桂は小さく口元に笑みを乗せただけで何も言わなかった。右
側の高杉に至っては、見上げる前に頭を乱暴にぐしゃぐしゃとかき混ぜられたので顔も上げられなかった。
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