書庫1

□おでかけ編
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「攘夷」
「ジョウイ」

開いた襖の向こうからそんな声が聞こえてきて、思わず手にしていた煙管を取り落としそうになった。

「反天人」
「はんあまんと。」

二つとも知っている声だ。どちらも真剣である。そっと細い隙間から覗いた先に、長髪の後姿があった。
文机をはさんだ向こう側に幼い子供の、必死の形相がある。真剣のつもりなのだろうが、頬が強張ってしまっている。
必死すぎて自分の顔がどうなっているのかもよく分かっていないようだ。
 
「倒幕」
「トウバク」
「上手だぞ、こひじ」

桂がゆっくり発していく言葉の発音を真似ていく。
確かに発音は出来ているが、どうも一つ一つの発音が硬いせいで、カタカナをしゃべっているような印象がある。それでも桂は相好を崩したのだろう、頭を撫でられたこひじが嬉しそうに笑ったからきっとそうだ。

「……お前ら何やってんだよ」

こらえきれなくなって、高杉は襖の内側に聞いた。
 
「とおさま」
「こひじに勉強を教えている」

振り返った桂は酷く真面目な顔でそう返すものだから高杉は呆れてしまう。

三歳児(推定)に攘夷思想を真剣に教え込もうとする夷党指導者!
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