書庫1
□プロローグ編
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隠れ家の中でも自分にこんなに気安く触れてくる人間がいただろうか。桂の螺子が飛ばない限りこんなふうに触れるなんてこともない。
一体誰が。
うすらと開けた視界に黒い頭が覗いた。
少し眺めの前髪はくせっ毛で、末端があちらこちらに元気良く撥ねている。先刻から触れてきた手は真っ白で、何の傷も無い。
ふっくらとした小さな手。
もみじのよう、とはこういうものを言うのだろうか。
ゆっくりと視線をめぐらせると、満面の笑みでこちらを見ている小さな頭があった。
ふくりとした頬を紅色に染めて、何がそんなに嬉しいのか大きな目がこちらを笑みながらじっと見つめている。
子供。
誰の。
「とおさま」
高い子供の声がそう言った。妙な納得をする。
―――ああ、俺の子供だったのか。
それにしてはあんまり似ていないな。どちらかというと、あいつに似ている。目なんてそっくりだ。あいつも小さいころはこんな可愛い顔をしていたんだろうか。
今でも十分可愛いことは可愛いが、顔はどちらかといえば可愛らしいというよりも端正というべきだ。これも成長したらあいつみたいに切れ長の目になるのかなぁ、と他愛もないことを思う。
いい加減瞼を開けているのも面倒くさくなったのでがしがしと頭を撫でてやって、小さい体を抱き込んだ。
残暑の季節には少し熱い。
子供は体温が高いというが、これじゃあ冬は湯たんぽ決定だなぁ、なんてそんなことを思って再び睡魔と手をつないだ。
こども。
ちいさな、こども。
………こど、も?