書庫1
□プロローグ編
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ぺたぺたと頬を無造作に触られてまどろんでいた意識が浮上してくる。
体がだるい。
昨日は花街へ繰り出して、しこたま飲んできたから。
腰の瓢箪にいつも多少の酒は準備しているが、ザルの身にはそれだけでは全くといって良いほど酔えやしない。ちゃんとした店には這入れない身なのでどうしてもあけっぴろげとはいかないが、花街にはひっそりとした店も多い。すねに傷を持つ人間から自分のようなものまで様々に入り乱れている場所で昨晩はかなり羽目をはずした。
お尋ね者だからといってずっと室内にこもりきりでは気も滅入ってしまうというものだ。元々お祭り好きは性分なので、湿っぽいことは大の苦手と来ている。
ぺたり。
体温の高い手だと思った。
誰だかは知らないが、殺気が無いので煩げに手を振って離れろと促す。
ヅラの新手の嫌がらせか、と高杉は隠れ家の提供主である盟友に対しては少々失礼な感想を抱いた。説教を繰り返しても高杉が右から左に聞き流しているものだから、とうとう幼稚な嫌がらせに出たらしい。
だが子供のようにぺたぺた触ってくるとはどういうことだ。
ぺた。
手は止まらない。煩げに振った頭に笑う声がした。微笑でもない。きゃあ、と子供のような。
(―――こども?)
頭が重い。
久しぶりに二日酔いをしたようだ。睡魔の手を振り解いてすう、と思考が現実に戻ってくる。
ヅラはそんな笑い方をしない。
誰だ。
誰が、自分に触れている。