書庫4

□In Paradism 渦の奥、その水底へ
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酔い潰れてしまった近藤に肩を貸して、沖田は街の外を目指し歩いていた。
重い。
体格が立派なものだから、力の抜けた体は恐ろしいほど重かった。タクシーがないのに腹が立つ。午前五時半、朝日はもう昇り掛け地平線の向こう側の空気を薔薇色に染めようとしている。日はまだ短いが、これから次第に長くなっていくことだろう。それなのに、この街はあまりに夜間の治安が悪いものだから、タクシーが寄り付かないのである。
ズルズルと近藤を引きずる沖田を見かねたトシが手を貸そうとしたのだけれど、その細い肩に近藤の巨体(ともいえぬが)を乗せてしまったら、壊れて潰れてしまうような気がして沖田は丁寧に申し出を固辞した。
近藤はそんな状態だというのに、出来立ての組織を放り出すことも出来ず、少し眠っただけで出勤をしなければならない。
しっかりしてくだせェよ、と一度眠ったら起きない近藤の頬をぺちぺち叩きながら引きずる自分は健気だと沖田は思う。

「トシさんも知ってるかもしれやせんが、この人大層寝汚くって大変なんですぜ。毎日毎日叩き起こされねぇと目が覚めないんでさァ。おまけに寝相も最悪で、雑魚寝してた時なんて何人も犠牲が出てるんです。トシさんも今からようく防衛索講じてくだせぇよ」
「…総悟」
「それからこの人ァ、基本雑食かと思やァ変なところで好き嫌いが激しくてねィ、女子供みてェに汁粉が好きなんですけど。まァトシさんが作るもんなら何でも喜んで食うに違いねェや」
「総、」
「それからこの人、泥酔すると何でもかんでもすぐに脱いじまう癖が…」
「総悟」

ひどく固い声を注がれて、ようやく沖田は抜け気っていない酒に押し出された饒舌を止めた。
トシは少し後ろで足を止めている。
朝日がその後ろからゆっくりと顔を出して、沖田はぼんやりとあァ、後光みてぇだと思った。その朝日に逆光になり、トシの顔色まで伺うことは出来なかった。
ハァ、と吐き出した息が白く凍えている。
上掛け一枚ではいくらなんでも寒くはないかと次に沖田は心配した。自分が直後、冷水を浴びせられるなんてことは考えもしなかった。
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