書庫1

□おにーさんと拉致デート編
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屯所は何事も無く、土方がいたときと同じように平穏であった。
警備は通常と変わっていない。のどかなものだ。むしろだらけているかもしれない。副長が負傷しているのなら、こんなにも緊張感のない空気であるはずもなかった。
やはり自分の思い過ごしかと胸を撫で下ろしかけた伊庭ではあったが、土方が重症であったとしても彼のことだ、攘夷志士につけ込まれないためにそれくらいは指示をするかもしれないと思い直す。この点、伊庭もまた土方のイメージに捕らわれて全てを必然と思い込んでしまう傾向があるようであった。

「トシさんはいるかい?」

たまたま通りすがった山崎を捕まえ、にっこり笑ってそうたずねると(伊庭はいつだって笑っているような顔をしているのだが)山崎は一瞬つられて笑いかけ、途端我に返って口ごもった。

「ふ、副長は京に出張中ですよ。知らなかったんですか?」
「だってトシさんが一ヶ月以上も江戸を離れるなんておかしいだろ?」
「斎藤さんが駄々をこねたんですよ。ほら、今大物がみんなこっちにきてるから、どうせならホームを叩いておこうって提案があって」
「いくら雑魚とっつかまえたって攘夷の基盤がそうそうなくならないに決まってるさね。トシさんがそんなことも気が付かないはずはないと思うけどねえ」

かといって、斎藤ならありそうな話である。沖田以上に土方にべったりで、沖田以上に実は我侭な男なのだ。人の善い井上に訴えて、土方を呼んでもらったことも考えられるが、それなら今度は沖田が黙っているはずがない。
そうなればひと騒動あるはずで、それなら伊庭の耳にも入っているはずである。
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