書庫1
□プロローグ編
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がばりと高杉は跳ね起きた。
ここは攘夷志士の隠れ家である。
子供なんてうろうろしているはずが無い。
その上高杉自身、多くの女とは関係したが孕ませた覚えは無い。今は女関係は落ち着いているとはいえ、子供が出来たなんてついぞ聞いたことは無い。
その上なんだ、あの満面の笑みは。
思わず高杉は口元を押さえた。
自分に向けられた、屈託の無い笑顔。子供に好かれる外見ではないということを高杉は十分理解している。粋な格好をしていても子供から見ればおびえられるのが関の山だ。
大体自分には似ていない。
あの目の感覚。肌の色。髪の質。
―――むしろ土方にそっくりではないか。
だがあの子供は時分を「とおさま」と呼んだ。
舌足らずの高い声で、確かに。