妄想夢話・2
□さようならのかわりに
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荷物を運び出した後の部屋は、思っていたより広かった。
入口に立ち部屋を見回す。
正面に窓。あそこにはベッド、箪笥にテレビに本棚。
冷蔵庫、洗濯機、テーブル……。
「さって…と、いきますか!」
ドアを閉め鍵を差し込む。
──カシャン。
なんだかいつもより大きく聞こえる鍵の音がとっても笑えた。
鼻歌混じりで歩き出したら、前方から見慣れた人影。
「……手塚?」
「今日が最後だと聞いた。…もう行くのか?」
「うん。不動産屋に鍵返してお終い」
「一緒に…」
「いいよ、ここで。顔見せてくれただけで充分!!」
「………」
眉間の皺も、仏頂面も、不思議に流れた前髪も、最後に会いに来てくれた。
それだけで充分。
「……元気で」
それだけ言ってアタシに手を差し出す。
「左手ぇ?ボーイスカウトの握手かい!?」
「あ、いや…」
単純に利き手を出しただけなんだろうけど。
「ありがとう手塚。元気でね」
「ああ」
「また…、会おうね」
「もちろんだ」
『またいつか、君と笑い会えるように、祈ってます
近くもない、遠くもない場所で、祈ってます
また、会いましょう!』
さようならのかわりに
大きな手を握る。
また、会えることを祈って
強く、強く。
さようならのかわりに
『ありがとう』を。
また、会いましょう!