09/20の日記

21:59
担当エド
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今日はいつも俺より先に目を覚まして起こしてくれる声がなかった。
変わりに鳴る目覚まし時計の音がうるさくて目を覚ました。
隣を見れば、うっすらと汗をかき、頬が上気して気だるげにしているエンヴィーがいた。

「…」

ヒタリ。

「…熱「冷た!」

触った額が熱くて手を引くのと同時にエンヴィーの声が重なる。

「…エンヴィー?」
「もー…触るなら一言言ってくれればいいのに〜…あれ??おチビさんが二人??」

だ…ダメだコイツ…。
意識大丈夫か??

「ちょ、おま、体温計どこ!!??」
「熱なんてないってば〜」
「嘘つけー!!!」

体温計で計らなきゃ何度かわかんねーけど高いだろ!
既に意識朦朧としてるし!
しかも本人に自覚がないときやがった!
辺りをがさごそと探すこと三分。
目的の体温計は見つかり、すかさず体温を測る。

「……38.9℃…」

まぁ意識は朦朧とするわな…。
って関心してる場合じゃなくて!

「風邪じゃねーか!」
「ぅー…」
「ちょっと寝てろ!」

バタバタとその場を後にして色々用意していると、今起きてきたらしいラースがキッチンに入ってきた。

「ん……ママ…?どうかしたの?」
「エンヴィー…もといパパが風邪引いて熱が高いんだ。だから色々用意してるんだよ」

まだ寝起きで頭がぼぉっとしているのか眠そうなラースの頭を撫でてそう告げる。
先にラースのご飯作らなきゃ…このままには出来ない。

「先にご飯作るから顔洗ってきてな」
「……うん……」
「……おい……」

くぅっと立ったまま寝始めるラースを抱き上げてソファーに寝かすと毛布をかける。
こういうところはほんとエンヴィーと似てるよ…。
つか、立ったまま寝るってどんなだ!!
なんつー器用な…。

「物音に気づいて起きただけか…もう少し寝てな…」

そっと髪を梳いて頭を撫でる。
気持ち良さそうに眠るラースは可愛い。
いつもなら見てるとこだけどそうも言っていられる状況じゃないからな。

「よし!」

手早く朝ごはんの用意をすますと、本題に取り掛かる。
しばらくすると玄関をノックする音がした。
誰だろ?

「姉さ〜ん、起きてる?」
「は〜い、今開ける!」

玄関から聞こえてきたのは弟のアルだった。
カチャリとドアを開けると、そこにいたのはアルと…。

「え?リザ…さん?!」
「おはよう、エドワード君」
「え…え??何??」
「助っ人その1です」
「助っ人その2でーすv」
「というわけでお邪魔するね、姉さん♪」

意味がわかんねーんですけど…。
フリーズする俺を尻目にリザさんは淡々と説明をする。

「昨日のエンヴィー君の様子がおかしかったから今日倒れている頃だと思ってきたの。アル君って確かラース君と仲良しだし、助っ人には良いかと思って」

にっこりと笑顔で説明されても…確かに昨日ダルそうだったけど倒れる予測が何故できたのか…。

「ということでラース君のこととか後のことは任せてエドワード君はエンヴィー君の側にいてあげてね」
「悔しいけどエンヴィーさんは姉さんいないとダメだしさ。ラース君は任せてよ」
「ありがとう」

中に入るやいなやアルはキッチンに入って何やらごそごそと探して目的のものを探すと、それを湯に溶かしていた。

「はい、姉さん。簡易朝ごはん♪まだ食べてないんでしょ?」

手渡されたのはカップスープだった。
そういえば忘れてた。

「それ飲んだら氷枕とタオルと冷水入りの桶寝室に持っていってらっしゃ〜い」

我が弟ながら用意するの早!!
助かったけど。
手早くカップスープを飲むと、用意されたものを持ってエンヴィーの元へいく。
寝室のドアをノックするが返事はなかった。

「エンヴィー、入るぞ…」

そう言っても返事はまたしてもなかった。
なるべく音を立てないようにしながら持ってきたものを置くと、ヒタリっとエンヴィーの額に触れてみる。
「…ん…」
「あ…起こしちゃったか?ごめんな…?」
「ううん……うとうとしてただけだよ…」

きっと手が冷たかったから起きたんだな…。
悪いと思って手を引こうとしたら袖を引っ張っている手に気づいた。

「…エンヴィー?」
「…もう少し……このままで……」
「……エンヴィー…」

そう言っているエンヴィーはホントに辛そうで、目からは涙が流れていた。
溢れる涙をそっと空いている手でタオルを持つとそっと拭う。

「…辛い…」
「……」

そう問うけれど返事はなくて辛そうに顔を歪めるだけだった。

「…側にいるから…泣かないで…」

声が聞こえていないのかエンヴィーはそのまま眠ってしまった。
そっと袖を握っている手を外させると氷枕を頭を少し持ち上げて下に入れる。
額にも冷水で絞ったタオルを置く。

「エンヴィー…」

そっと手を握るとエンヴィーが少し唸った。

「……で…行か…ないで…おチビ…さん…」
「エンヴィー……」

これはいつもの寝言だ。
俺は置いてなどいかないのに。
俺はここにいるのに。
エンヴィーの夢の中には誰もいない。
エンヴィー一人だけの、一人ぼっちの夢をよく見るらしい。
それがわかるようになったのは結婚してしばらくたってからだった…。
夜な夜なうなされては涙を流している。
最近はなくなったけれど最初は毎晩だった。

「…エンヴィーは独りじゃないよ…」

そう言っても本人は寝ているから気付かないのだけれど…。

「独りじゃない」

自分に言い聞かせるように、エンヴィーに言い聞かせるようにつむぐ言葉。
それから何時間そうしていたか分からないくらいの時間に感じた。
エンヴィーが起きるまで。

「…んぅ…」
「…気がついたか?」
「おチビ…さん…?あれ?俺…寝てた…?」
「…うん…よく寝てた」

きゅっと手を握ってその手を摩って笑む。

「この枕と額にのってるタオルはおチビさんが?」
「ん?ああ、熱高かったから…」
「…ありがと…」

ばっ、ちょ、その顔は卑怯!!

「ばっ、び、病人がいたら普通やるだろ!?れ、礼を言われることなんてしてないし!」

そ…その笑顔に俺は弱いんだ、チクショー!!
焦る俺が目についたのかエンヴィーはじとーっと俺を見て「…ねぇ、おチビさん」と呟く。
なんか嫌な予感が…。

「な、何!?」
「僕寝ている間になんか寝言言った?」

!

「!い、言ってない!何も言ってない!」
「…本当に?」
「ほ、ほんとに」

目が合わせられない。
エンヴィーもしかして気付いてる?
目が合わせらんねー!

「そっか、ならいいよ」

な…なんだったんだ、今の。
でもエンヴィーは何でもない素振りをしてにこっと笑っている。
とりあえず詮索されなくてよかった…。

「…今、何時?ラースは?」
「今は昼の2時。ラースはアルとリザさんがみてくれてるよ」

エンヴィーに軽くアルとリザさんが来ていることを説明する。
まあ、なんだ、とりあえず…。

「だから、さ、早くよくなって元気な顔みせてくれよ、な?」

これは本心。

「…うん…ありがとう。リザさんと弟君にも伝えておいてね」
「ああ」

それからはお互いクスッと笑ってエンヴィーはまた眠ってしまった。
今度はうなされることなく柔らかに笑みながら。
早く、早く元気になれ。
そして元気になったら言うんだ。
おはようと。
一人の夜はもうないのだと。
もう独りじゃないと。
すぐ側にいる。
それを分かってほしくて…。
しとしとと降る雨。
この雨に流れてこんな辛い思いも消えてしまえばいい。
晴れたらきっと本心から笑える。
そんな気がした。
流れる涙…エンヴィーの前では極力見せない涙。
一人にはさせない…側にいるよ…
信じて…。
エンヴィー…。
泣き声を気付かれないように声を押し殺しながら泣く。
我ながら女々しいよ。
なんか悔しいよ…エンヴィー。

そっとベッドサイドに腰かけると髪を軽く梳く。

「早く…元気になれよ…バカエンヴィー…」

すやすやと眠るエンヴィーにそっと呟いた。

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