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かぎなれた本の匂いに少し安堵する。
中途半端な時間のためか、図書館にはあまり人がいなかった。

自分が読んだ本の背表紙を、数えるように1つづつなぞる。

――いつか、僕の本がこんな風に並ぶ日はくるのだろうか。





震えながら原稿用紙に向かったあの時から、物書きになろうと思っていたわけではない。

けれど、空想と文字とで世界を作る行為は、純粋に楽しかった。

傷を癒すために紡いでいた繭は、いつしか僕の夢の形になり、勉強そっちのけで書き続けて。

そして、君に、出会ったんだ。



君は、とても失礼な奴だった。
人の原稿を勝手に読むばかりでなく、書きかけの原稿まで横から覗き込むような礼儀知らずだった。
けれど、僕のへんてこな名前でも幼く見える見てくれでもなく、僕の小説に興味を持ってくれたのは、君だけだ。君だけが唯一。





少し奥まったところにある、推理小説ばかり並んだ本棚。
僕が毎日のように通ったその棚の前に、今日は先客がいた。
さして興味も無さそうに背表紙を追っているのは、久しぶりに見る見慣れた横顔で。

「…火村?」
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