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□Starting Today
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いつも君は、どこかに行かなくてもいい理由をくれる。
世界がおかしくなっているなんて、信じるのはやめたんだ。
もしそうだとしても、君は助けてくれるだろうし。
−Starting Today−
ひどく満ち足りた気分で目を覚ました。
カーテンを引いていない窓から見える空は、既に明るい。
腕の中で眠るアリスを見て、昨日の記憶を辿った。
「…まだ信じられねぇな」
昨夜、俺はアリスを抱いた。
ずっとそばにあって、ずっと焦がれていた存在を、やっと手に入れたのだ。
「アリス…」
唇に触れるだけのキスを落とす。
こうして寄り添っていられることが、ただ幸せに思えた。
「…こそばゆいわ…」
小さく身じろぎをして、アリスが薄く目を開けた。ムードのない奴だな、と揶揄すると、目を丸くして俺を見る。
「どうした」
「…君も、そんな顔、するんやな…」
そう呟いたアリスの頬は赤くて。
浮かれてしまう。
見とれてくれたのかな、なんて、自惚れてしまうから。
「どんな顔してる?」
「えっらい甘い顔しとるで。溶けそうや」
照れ隠しのようにアリスは冗談ぽく笑った。
それが愛しくて、覆い被さるようにその身体を抱き締める。
「長年の片思いが実ったんだ、そりゃ甘い顔にもなるだろうさ」
ダメだろう、と思っていた。
今まであった安寧――親友という地位すら――も捨てるつもりで、想いを告げた。
『おれも、君のこと好きや』
想像していたどんな言葉より、その答えは衝撃的で。
君がおれに思うのと同じように、君が好きや。やから、そんなに痛そうな顔せんでくれ。おれまでつらくなる。
そう言った、今にも泣き出しそうな笑顔が、堪らなかった。
「火村」
アリスが耳元で小さく笑う。
「そしたら、おれかて一緒や。諦めてた恋が実って、浮かれてる」
「…え?」
言葉の意味を図りかね、身体を少し離してアリスを見た。
アリスは恥ずかしそうに目を伏せて、あのな、と再び口を開く。