□good day,good bye
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社会人生活もそろそろ3年目に突入しようかという、ある日のこと。

「有栖川」

呼ばれて顔を上げると、他部署に異動した先輩がヒラヒラこちらに手を振っていた。

「鈴木さん!お久しぶりです!」

顔を見るのも久しぶりで嬉しくなる。
ぼくはデスクを離れて彼へ駆け寄った。

「相変わらずしまりのない顔やなぁ。仕事はええんか」
「大丈夫です。大方片付きましたから」
「ほぉ。できるようになったやないか」

そんなことを言いながらオフィスを出る。
鈴木さんは入社30年オーバーのベテランだ。ただの先輩ではない。入社から半年間、ぼくをみっちり鍛えてくれた、足を向けて寝られないくらいお世話になった人である。

「今日はどないしたんですか?」

自販機で買ったコーヒーを手渡しながら尋ねると、鈴木さんは少し困ったように微笑んだ。

「有栖川、俺、今日で終いやねん」
「…え?」
「定年や。せやから、今日は挨拶に来たんや」

まだ一緒に仕事が出来ると思っていた。
まだ一緒に飲みに行けると思っていた。
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