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□冬のはじまり
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地面でくしゃくしゃになった葉っぱだとか、残る葉もまばらな木。
ボイラーやストーブで燃える灯油の匂い。
どこかで聞こえる石焼きいもの声。
そういうものに気が付くと、あぁ冬になるなぁ、と思う。
そんな僕の格好も、パーカーからセーターになり、今日に至ってはおでんの入ったタッパーなんぞを持って、火村の下宿への道を歩いていた。
「…おも」
あんた火村くんとこにいくんやったらこれ持ってき。バカ息子がいつもいつもごめんなさいねぇてお母さんが言うてたてちゃんと伝えるんよ!
そう言って、母は家でいちばん大きいタッパーに、煮詰まっていい色になったおでんを詰めて寄越したのだ。
「ちゃんと伝えるんよ、て…小学生か」
確かに、火村がいなくてはレポート提出もままならないバカ息子だが。
そんなことを考えながら少し仏頂面で歩いていると、後ろからぐっと肩を掴まれた。
ギクリとして振り返る。
「…なんや、火村かぁ」
「火村か、じゃねぇよ。何回も呼んでんのに」
くわえ煙草の男前―火村だ―に軽くにらまれる。