□4PM
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夕暮れ。

柔らかい光ときれいな空に惹かれて、ベランダに出た。
輝くような雲に目を細める。

テーブルに置かれたままのキャメルの空箱を見つけ、朝までそばにあった髪を梳く指先と、揶揄するように笑う瞳を思い出した。


君の住む古都は、きっとここよりも澄んだ空気と、優しい音に包まれていることだろう。
私たちの様々な記憶と、なくせない思い出を積み重ねた、あの場所は。


…猫たちは、散らかったままのあの部屋で戯れているのだろうか。
君は煙草臭い指先で、彼らを愛しんだりしているのだろうか。

そう思ったら無性に声が聴きたくなった。
「…今朝帰ったばっかりなのに」
私も堪え性がないことだ。
思いながらも行動しないのは、それがお互いのためだから。

――君も私も、自分たちが思うより沢山のことを抱えているのだ。

心地よい風が髪を揺らす。髪や服に染み込んだ君の残り香が香って、私は小さく笑んだ。

「…そばにいるみたいや」

君もこんなふうに、ふいに私を思い出すことがあるだろうか。

あればいいな、と思いながら目を閉じる。



どうか、こんな優しい日には、君が誰よりも、心穏やかであるように。





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