他BL

□イン ザ オレンジ
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口から漏れた白い息が北風に流されて消えた。
そしてその北風の容赦ない攻撃を喰らった俺は、反射的に身を竦める。
野菜や肉が入ったビニール袋(今夜の鍋の具材)を持っている指先からは徐々に感覚が失われていく。
これだから冬は嫌いだ。
唯一の自然熱源である太陽も、既に半分以上ナギサの海に沈んでいるのがさらに俺の不機嫌を助長する。

「おーっ! デンジ見てみろよ、夕日が綺麗だぜ!」

そんな俺の現状を知ってか知らずか、数歩先を行くアフロが良い笑顔を見せた。
同じ様にぶら下げたビニール袋を揺らし、道路の欄干を掴んで身を乗り出す。
信じられない事に秋終わりまで半袖&サンダルで過ごしていたこの男も、流石に今はジャケット&スニーカーに衣替えしていた。
それでも俺から見れば薄着に近い。 マフラー位巻け。
それともあの頭にすると寒さが和らぐんだろうか。
例えそうだとしてもアフロは願い下げだな、とかなんとか考えていると一層強く北風が吹きつけた。

「……おいオーバ」
「あぁ悪ぃ、お前寒いの嫌いだもんな」

呼びかけただけで俺の言いたい事を読み取ってくれるのは、もはや特技なんじゃないだろうか。
そう言うと調子に乗るから言わないが。
欄干から離れて歩みを再開したオーバを追い、右側に並んで歩く。
相変わらず北風は攻撃の手を緩めないわ、太陽は沈むのを止めないわで、俺の心は荒む一方だ。
対称的にオーバは未だに「俺夕方って好きだな」とかほざいている。
いい加減夕日に関心を向けるのを止めろ。

「オーバ、寒い」
「だから早く帰るんだろ?」
「寒いったら寒い。 耐えられる気がしねー」
「弱っ!」

大袈裟に驚きをアピールするオーバを無視し、ビニール袋を持っていない左手に白い息を吹きかける。
本来なら右手にも息をかけたかったが、荷物をその高さまで持ち上げるのすら億劫だった。
寒いと少ない動きすら面倒になる。


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