立海

□スキル:おくびょう
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「柳生、好いとうよ」

西日が差し込む部室に二人きり。
一足先に着替えを終えた俺は呟く様に、しかしはっきりと伝わる様にそう言った。

「もちろん友達としてじゃなく、恋愛感情としてじゃからな」

恐る恐る横目で柳生の表情を伺う。
ただでさえ加工されていてその奥が見えにくい眼鏡は光を反射していて、驚く程何も見えなかった。
眩しいと目を細めながら、かろうじて呆けた様に開かれた口だけを視認する。
これで何度目だったろう。 柳生に告白したのは。
唯一覚えているのは、初めて告白した時はこんなに西日が強くなかった事だけだ。
それが何時だったのかはもう覚えていないし、それからどの位月日が経ったのかなんて分からない。
昨日だったかもしれないし、一週間前だったかもしれないし、一ヶ月前だったかもしれない。
流石に一年前って事は無い、と思う。

「………のう柳生、お前さんはどうじゃ?」

盗み見るのを止めて、完全に柳生と向き合う。
俺が動いた事で西日の反射角度も変わり、眩しいと感じていた直射攻撃が軽減された。
柳生の表情は変わらない。
静かに重く漂う空気を吸い込んだら喉が痛んだ。
水分が足りない。 カラカラに枯渇している。
俺が唾を飲み込もうとしたその瞬間、柳生はポカンと無防備に開けていた口を閉じた。
俺が唾を飲み込んでから一拍置いて、柳生は再び口を開いた。
仁王くん、と聞き慣れた声が鼓膜を震わせる。


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