他BL

□愛詰め込んで
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またスイクンに逃げられてしまった、と肩を落としながら私はエンジュシティを訪れた。
別に身を休めるならどこでも良いのだが、自分が居た位置から一番近い街だったのもあるし、何よりここには古くからの友人が居る。
最後に会ったのは2ヶ月前位だっただろうか。
久々に顔を見て、そして旅の思い出話でも聞かせてやろう。
そう思いながら故郷ではもうあまり見られない引き戸式の玄関をノックした。

「マツバ、居るか?」

自分が来た事を伝える為に声をかける。
すると引き戸越しにも明確に伝わる位慌てたバタバタという足音が聞こえて来た。
この音を耳にする度に、いつか転んでしまうのではないかと心配になる。
しかし今日もその心配は杞憂に終わり、ガラガラと立て付けの良い戸が開かれた。

「ミナキくん! 久しぶりじゃないか」
「あぁしばらくぶりだな、マツ……バ?」

名前が疑問系になってしまったのは、決して出て来た人物がマツバで無かったからではない。
当然マツバはマツバなのだが、その格好が初めて目にする物だったからだ。
いつもの格好の上からシンプルなエプロンとマフラーと同じ配色のバンダナを巻いている。
なんというか、家庭科の授業を受けている子供の様な装いだった。

「どうしたんだ、それ」
「あぁ今おにぎりを握っていた所だったんだ。 ゴメンね、こんな格好で出迎えて」
「いや気にするな。 急に訪れた私も悪かった」

そんな事より、マツバが料理だと?
いやおにぎりを料理のカテゴリーに分類していいのかどうかという疑問はあるが、とりあえずそれは置いておこう。
あのマツバが、あの今時珍しい箱入り育ち・世間知らずのマツバが、台所に立っている?
彼の事を良く知らない者なら想像しやすいであろう光景を、彼を知りすぎている私は全く想像出来なかった。
まず白米が炊けるのかという所から心配で仕方が無い。



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