他BL

□蹴り落とした背中
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同盟盟約の確認の為にわざわざ四国を訪れてみれば、国主は城を留守にしているという。
我が訪れる事は事前に連絡しておいた筈なのだが、その書状に不備が有ったのか奴が忘却しているのか。
多分後者であろうと云う確信と確かな怒りを抱きながら、我の事など脳内から抜け落ちてどこかで油を売っている男の居場所を聞き出す。
幾人程聞き出す前に逃げられてしまったが、ようやく奴の部下の一人を「縛」で捕らえる事に成功し、居場所を聞き出した時には怒りよりも呆れの方が勝ってしまった。

「阿呆か馬鹿かと思ってはいたが……ここまでとはな」

従者を置いて一人足を運ぶは海岸沿い。
瀬戸内とは真逆の方角に位置する海が広がる景色の中に、目当ての銀髪が溶け込めていなかった。
常に衣服としての機能を果たしていない紫衣が、いつもの様に潮風で靡いている。
手には釣竿、横には魚篭。
誰がどのように見てもそれは釣り姿であり、我が訪問するという事実を忘れているのは明白であった。

「おい、長曾我部」

声をかけ背後に忍び寄ると、奴は返事もせず振り向きもせず不用意に自らの背を取らせた。
それ所か我の気配に気付いている様子も無く、暢気に鼻歌なんぞを口ずさんでいる。
呆れという感情は峠を越え、再び腹ただしさが湧き上がってくる。

「我との約束を放棄し釣りに興じるとは、良い度胸ではないか」
「ん〜? おう」

ようやく返って来た言葉も、単に条件反射で意味の無い相づちを打っただけの様だった。

「聞いておるのか貴様」
「おう」
「これは同盟破棄と見なしてよいな?」
「おう」
「我はいの一番に四国を攻めるぞ」
「おう」

暖簾に腕押し、と云う言葉が脳内を過る。
今の長曾我部は自分だけの世界に籠っているのであろう。
まるでそう、幼少時の様に。
姫から鬼に名称を変えようとも、図体が大きくなろうとも、者の本質は変わらぬという事なのかもしれぬ。
一人で居る時こそが本当の自分。
果たしてそれは奴が我に言う『孤独』と何が違うのか。


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