他BL

□青年と浮遊青年
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そんなやり取りがあって一週間と少し。
元親は未だ噂の霊とやらには出会えていなかった。
しかし目撃証言は絶えず、最近では城下でも噂になっているらしい。

「ちくしょう……絶対に会ってやる」

月も完全に昇った深夜に、足音を遠慮せずに響かせながら元親は城内を練り歩いていた。
当初は部下や城内の侍女達に変な心配事を増やしたく無いという気持ちの方が大きかったが、ここ最近はもはや意地だ。
自分の前に姿を見せないその霊に、どうしても会ってやりたい。
会ってどうするかなんて決めていないが、とにかく会う。
もうそれだけだった。
その思いだけを胸に廊下をギシギシと軋ませていると、反対側から酷く慌てながら侍女が走り寄ってきた。

「も、元親様!!」
「どうした、まさか!?」
「その、まさかに御座います!」

侍女がたった今走って来た方角を指差すとどちらが早いかという瞬間に、元親は走り出していた。
どこまでも続くような暗がりを何の配慮も無く、ただ一心不乱に駆ける。
途中二度程足が縺れながらも駆け抜いた先の突き当たりに、それは居た。
明かりも無い闇の中にぼんやりと浮かぶ白。
それは確かに霊と表現されるに相応しい存在だった。

「おいあんた、何でウチの城内をうろつくんだ?」

恐れる事無くその白へ近づき、問いかける。
白は答えない。
さらに足を進めてみる。
すると白は風に流される様に、くるりとこちらを向いた。
涼やかな瞳が元親を射抜く。
射抜かれた元親は、自分の体が端々まで凍り付くのを感じ取った。
そしてようやく白が口を開く。

「会いたかったぞ、長曾我部」

そう言って白こと毛利元就は口端を左右非対称に吊り上げた。


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