他BL

□盤上世界における役割
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パチンとかカツンなどと形容できそうな音が室内に響く。
その音が鳴ってからそう経たない内に、音も無く歩兵が動かされた。

「早ぇよ、もう少し考えたって良いんだぜ?」
「貴様がこの手駒を動かす事は数手前から読めておった。 故に考える時間など我には不要ぞ」

さらりと言い放つ元就の返答に対し、元親は小さく舌を鳴らす。
そして数々の駒が並び立つ盤上を眺めて眉間に皺を寄せた。
見た目によってこのような頭脳戦は不得手らしい。 当然元就も見た目による腕前だ。
ここまでの勝敗も全勝と全敗に明暗が分かたれている。

「いつまで考え込んでおる」
「そう急かすなよ……こっちは王将と玉将の違いも分からねぇんだぜ」
「大した違いではない。 要するに先手と後手の違い位にでも思っておけば良い」
「ふぅん……じゃああんたが王で俺が玉なんだな」
「そういう事だ」

元親は再びふぅんと呟き、ようやく角を動かした。
それを待っていたように元就は飛車を動かす。

「何だぁ? こりゃ取ってくれって言ってるようなモンじゃねーか」

下手打ったな、と先程までの悩みっぷりが嘘のように満面の笑みを浮かべ、自身の駒である香車を動かして元就の飛車を奪った。
しかしそれは元就の策であり、その飛車を取れば多くとも三十手以内には確実に詰まされる状態に陥る。
前々から分かりきっていた事だが、元親は本当に先の先を読むという事をしない。
とりあえず目先の獲物を狩れれば良いとばかりに、無計画かつ無鉄砲に飛び出していく。
実際の戦であれば元就の計算外な動きをする事もあるが、動きが制約された盤上ではそれも無い。
そんな事とは露知らず、目の前の男は飛車を手に喜んでいる。


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