他BL

□天を統べる器
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毛利元就という男は人を駒として扱う冷血かつ冷徹な外道なのだと、長曾我部元親は思っていた。
しかし安芸へ足を運んでみると意外と町は活気に溢れていて、その表情は生き生きとしている事に気付く。
町行く住人を捉まえて評判を問うてみても、その手腕には賞賛の声しかあがらない。(やはり人間性には多少問題は有るらしいが)
それは元親を心底驚かせるのには十分すぎる材料だったが、よくよく考えれば当たり前の事でしかなかった。
そもそもの話、元就は毛利家の繁栄と中国の安泰を理由にこの乱世を生き抜いているのだ。
農民や商人が居なければ国の安泰も何も有ったものではない。
民草の生活を含めた全てを彼は統治している、というただそれだけの事。

「正直、あんたの事見直したぜ」
「いきなり土足で踏み入ってきたかと思えばそんな事を言いに来たのか」

貴様は馬鹿か、といつも通りの冷ややかな声で罵倒される。
しかしそうは言いながらも元親が手土産として持参した饅頭を口にしているので、腹を立てている訳ではなさそうだった。

「まぁ兵士を見捨てるような態度は未だに理解できねぇが……少なくともあんたに民を思う気持ちが有るって分かっただけでも儲けもんだな」
「何を儲けたというのだ、万年傾国の主」
「今それを持ち出すのかよ、性格悪ぃな」
「我は事実を申しただけだ」

正論を言われて返す言葉も無く、元親は誤魔化すように饅頭を口内へ押し込む。
確かに元親の治めている四国の財政は思いきり傾いている。
原因もはっきりしているが、重騎の存在は長曾我部軍に欠かせない物であり今更どうする事も出来ない。
少しでも国の金を使うまいと海賊行為で奪った宝を売りさばいて金を作ってはいるが、その最中国を統治する者が居なくなるという矛盾点も抱えている。
要するに、元親は国の治め方が下手だ。
だからこそそんな自分に付いて来てくれる部下や民を大事にしている訳だが。


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