他校

□世界が傾いていく放課後
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濃い橙色に染まりゆく校舎内を、財前は駆けていた。
脇目も振らず廊下を走り、階段を駆け上がる。
目指すは最上階。
来年にはもうこうやって急いで登る必要も無くなるのだろう、と頭の隅で思う。
そして目当ての教室に辿り着くと、加減もせずに扉をスライドさせた。

「謙也さん」

一応声だけは抑え目にして、自分のキャラを保って見せる。
ほんの僅かに乱れた息を隠しきれているかは微妙だったが。
ただ、机に突っ伏して背を上下させている目当ての人物には、絶対気付かれる事は無いだろう。
息を整えて、財前はその人物に近寄った。

「謙也さん?」

再度呼び掛けてみるが返事は無い。
規則正しい寝息が微かに耳に届くだけだ。
良く見れば、机と謙也の体の間に世界史のプリントが挟まっている。
状況から推測するならば、苦手科目である世界史の宿題を時間の余っている今片付けていたのだろう。
実際問題片付いたのかは謎だけれど。

「起きて下さい。もう夕方も良いトコなんで」

このメッセージが届かないのを知りながら、財前は言葉を紡いだ。
言いながら体を謙也の後方へ移動させ、木と鉄で出来たありがちな学校備品イスに手を掛ける。
そして大した力も加えずに、そのイスを引き抜いた。
当然、謙也の体は床に叩きつけられ、転がった。

「〜〜〜っ!」
「目ぇ覚めました?」
「そんなレベルちゃうわアホ!」

ちょっと涙目になりながら此方を見上げて睨む先輩の姿はなかなか滑稽に映った。
うっかり口元を緩ませてしまったのか、笑うなや、と怒られる。
と言うよりは、拗ねられたのか。

「スンマセン」
「どっちを謝ってんねん」
「待たせた事を」
「そっち!?」

二人の間ではありがちなボケとツッコミのコミュニケーション。
このやり取りに心地よさを覚えたのは何時頃だったか。



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