他校

□俺とお前と結び目と
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「っ!?テメ、何すんだ!?」
「暴れんなや。もう我慢出来へん」
「お、おい、止せ!止めろ!」

抵抗の末にもつれ合い、俺は背中を屋上のコンクリートにぶつける事となった。
痛くは無いが、眺めが良くない。
ただ青空をバックにした忍足は、何故だか綺麗に思えた。

「……良し。出来たで」

そう言って満足げな笑みを浮かべながら、忍足は俺の上から離れた。
俺は起き上がりながら自分の襟元へ手を寄せる。
と、しっかりとした結び目に指が当たった。

「完璧やろ」
「………苦しい」
「そんなきつく締めて無いで?」
「なんか違和感が有る」

初めて、では無いが、久々にきっちり結ばれたネクタイに違和感しか覚えない。
妙に圧迫感が有って苦しい。
そういう訳でさっさと緩ませると、あからさまにがっかりする顔があった。

「あーまた緩める……」
「慣れてねぇから苦しいんだよ」
「じゃあ慣らしていけばええやんか」
「ならこれから毎日テメェが結べよ」

からかうつもりで『毎日』と云う単語を使ってみた。
てっきり突っ込みが有るかと思ったのだが、一切反応が無い。
むしろ、アホみたいににやけた顔をしていた。

「ええなぁそれ。なんか夫婦みたいで」
「ほう?ということはお前が嫁だな?」
「なんでやねん。せめて専業主夫やろ」
「そうか、専業主婦か」
「いや、絶対漢字ちゃうやん」

この僅かなニュアンスの差を見破られるとは思わなかった。
的確に俺の心理を読んでいる。
読むのは得意だが、読まれるのは苦手だ。


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