他校

□365日の壁
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「留年して欲しいッスわ、謙也さん」

冬の寒さも厳しくなってきた頃。
OBとしてテニス部を訪問している時、新部長にそう言い捨てられた。
入部当初から良く言えばマイペースだった財前に部長が務まるのか若干心配したが、何度か見に行った様子から見るとしっかりしているらしい。
流石に2年間も部長を続けた白石程とは言わないが。

「何でやねん。大体中学に留年制度は無いねんで」
「知ってますケド」

こちらに視線を合わせる事も無く、淡々と財前は返した。
低体温な彼にこの冷気は堪えるのか、ジャージのファスナーを限界まで上げて、縮こまるように口元を埋めている。
自分の巻いているマフラーでも貸してやろうかと考えたが、『受験当日に風邪引きたいんなら遠慮なく』と言う言葉で断られた。
それが彼なりの気の使い方、と云うか優しさだと理解出来る位には一緒に居る。
あと数ヶ月で、それにも区切りがついてしまうけれど。
そこまで考えて、先程の言葉の真意を読み取った。

「……お前、ひょっとして寂しいんか?」
「謙也さんは寂しないんですか」
「……そりゃ、寂しいわ」
「そういう事ですわ」

やはり淡々とした口調。
しかし、普段から大人びた発言をする彼を知っているからこそ、その言葉の意味や重みが身に沁みる。
しんみりするなんて、自分らしくないけれど。

「でも、たった一年やし」
「されど一年の間違いやないんですか」
「ポジティブに考えたもん勝ちや」

とは言ってみるものの、やっぱり一年という壁はデカいなぁと思う。
引退してから減った会う時間すらも、勿体無いような気がして仕方がない。
自分の誕生日があと3週間位遅ければ良かったのに。
以前財前に同じ事を言われたのを思い出して、少し笑みが零れた。


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