他BL

□無意識に刻む鼓動
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「……お前はまた命令を無視するのか……」

呆れながら問いかけるヒョーゴに対し、キュウゾウは眉一つ動かさなかった。
返事も反応も無いというのはとっくの昔に分かりきっている。

「勝手に敵陣へ飛び込むなと言っただろう」
「……敵が居たら斬る」
「だからそれを我慢しろと言ってるんだ!」

少し声を荒げてみても、キュウゾウに変化は見られない。
此方を向いている瞳ですら、自分を見ているという保証は無かった。
こんな一人相撲のようなやり取りを何度してきただろうかと考えたが、多分自分が落ち込むだけだったので止めた。
戦場での事ばかりに収まらず、日常生活の説教まで含まれるからだ。
ただ、戦場での事に限定した所で、出る結論は変わらないのだろうけども。

「…………はぁ」

何か言おうと思ったのだが、開いた口からは溜息しか漏れなかった。
そもそも、この少年には一般論が通用しない。
非常識というより無常識だ。
噂にも流れていたし、初対面の場が同胞の骸の前となれば、それを痛感せざるを得ないだろう。(まぁあの場合は同胞に非が有ったのだが)
しかし本当にこの少年には苦労させられる。
何かやらかす度、例え何もしていなくても予感だけで、心臓がうるさくなる。
冷や汗とも友人関係を築けそうだった。

「俺の寿命が縮んだらどうしてくれる」

確か人の鼓動の回数は決まっていると聞く。
それが本当だとすると、自分の鼓動回数はもう風前の灯火かもしれなかった。
別に長寿願望が有るわけではないが、そんな寿命の来かたはごめんだと思う。
そんなヒョーゴの気などいざ知らず、キュウゾウはかなり僅かに首を傾げていた。

「……何故俺がお前に関係している」

また言葉がおかしいなと思いながら、この年頃にしては低めの声を鼓膜に受け止める。
この少年は必要最低限すら下回った言語しか口にしない。
実際何を言いたいのか理解するのに、ちょっとした勉強をするはめになった。
お蔭で今は上司兼保護者兼通訳といった感じになってしまっている。
そういう点も、寿命を縮める鼓動に一役かっているかもしれない。
最悪の循環だと心の中で嘆きながら、一応説明した。
理解するかは微妙だったが。

「だったら同じだ」

しかし、返ってきた言葉は逆にヒョーゴの理解の範疇を軽く飛び越えてしまった。
もとより、あれだけの情報量では伝わるものも伝わらないが。

「……何が同じだと言うんだ?」
「俺も、寿命とやらが縮む」
「はぁ!?」

素っ頓狂な声が自然と漏れた。
全く持って意味が分からない。
いや“意味が分からない”のは何時もの事だが、今回はそれに輪をかけて謎だ。

「……俺も早い」

行間を読むならば、『俺もお前と同じく鼓動が早い』という事だろう。
しかしその先を読む事は出来なかった。

「……何なんだお前は……」

ヒョーゴは額に手を置き、本日幾度めかの溜息を吐いた。
何故かいつもより鼓動の音をうるさいと感じる。
その脈拍は、ヒョーゴの意識を無視しながら、速度を上げていった。

その無意識化の反応の訳が明らかになるのは、もう少しだけ先の事になる。


=了=


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