他BL

□獣の瞳
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ふと、街中で視線を感じた。
自分を狙うような鋭い視線に身構えるが、殺気は幾分も感じられない。
左手の荷物を気にしつつ、右手を刀の柄に添える。
しかし、それは随分過剰な反応だったと、少しばかり後悔した。

「……猫か」

細い路地から覗く双眸が、左手の荷物を狙っている。
確かに食物は入っているが、それは猫が食すようなモノではない。
それだけ餓えているという事だろうか。
しかし、すでに戦場に立っていないとはいえ、侍を目標に据えるとは。
抜け目ない猫だ。
そんな事を思っていると、なぁお、と高く鳴いてこちらへ近寄ってくる。

「何だ、お前にやる物など無いぞ」

猫に言語が解るとは思わないが、咄嗟に口から出ていた。
縋るような、しかし相変わらず鋭い視線が刺さる。
この感覚を、俺は知っているような気がした。
昔どこかへ置いてきたような、なのに今でも近くにあるような、相反した感覚が体に溜まっていく様な気持ち悪さに襲われる。
そんな俺の気も知らず、猫は目の前に居座り続ける。
黒い目の茶色い生き物は、動こうとしない。
それならばと、その猫を無視して帰路へとつく。
背後でもう一度、高い鳴き声が聞こえた気がした。


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