他BL

□あの空へ〜Side K
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蒼が遠い。
キュウゾウは天を仰ぎながら、幾度と無くそう思った。



キュウゾウは高い所が好きだった。
正確には、空に少しでも近い所が好きだった。
空が、恋しかった。

アヤマロの屋敷に来てからも、高い所を求める事は多々有った。
一度屋敷のてっぺんに登った事も有ったが、その後友にこっぴどく叱られた。
ので、適度に高い所を好むようにしている。
それは屋根の上だったり、時には天窓に腰掛けたり。
今日は屋敷の門の上にただ立っていた。
コートが風で翻るのも気にせず、ぼんやりと空を眺めながらただ立っていた。

そもそもキュウゾウにとって空とは『眺めるもの』ではなく、『立つもの』だった。
空は、戦場だった。
戦場は、キュウゾウの居場所だった。
人を葬り、機械を壊し、他人を殺し、自分が生きる。
そのスリルと優越感が、何よりの生きがいだった。
だからその『空』亡き今、キュウゾウは死人同然だった。


平和はキュウゾウを殺す。
平穏にキュウゾウは殺される。
安息がキュウゾウの身体を突き刺す。
安寧がキュウゾウの精神を切り裂く。


自分は今生きているのか。
自分は今死んでいるのか。
そんな単純な事すら分からない。


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