他BL

□鈴見酒
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無責任な奴だ、と凌統は風に吹かれながら思った。
チリチリと彼の形見である鈴が鳴る。
まるで語りかけてくるようだと、勝手に思った。

「本当、あんたは嫌な奴だったよ」

大事な人を奪った、大事な人。
そんな矛盾した気持ちが生まれてしまったのは何時だったか分からない。
ただ、思ってしまった。
そして、再び大事な人を失った。

「せっかく俺があんたの事認めてやろうと思ったのに……時機悪すぎだっての」

手にしていた陶器を握り締める。
行き場の無い思いが振動となって、器の中の酒に波紋を作った。
その波紋はとても不安定で、在りし日の自分に似ていると凌統は思った。
憎悪と親愛の狭間で揺れていた在りし日に。

「ほんと……嫌な奴」

胸の奥から込み上げる感情を、弔い酒で流した。
あまり酒には強くない凌統だったが、今日は何杯でも飲めそうな錯覚に襲われる。
そういえば以前甘寧に飲み比べ勝負を挑み、早々に倒れてしまった事を思い出した。
あの時自分を運んでくれたのも甘寧だったと
思い出したくない思い出が次々と脳内を支配していく。
思い出してしまえば、苦しくて悲しくなるから。

「……見てなよ、甘寧」

それでも自分は生きていかなければならない。
自分の為に。父の為に。国の為に。
そして、彼の為に。

「乱世に散った数多の思い、全部背負って生きてやるさ」
「はっ。お前の細っこい身体じゃ背負いきれねぇだろ」
「俺はそんなに細くない……つ、の……?」

凌統の語尾が切れ切れになる。
思わず返事をしてしまったが、今の声には聞き覚えがあった。
別にこの丘に誰かがやってくる事は不思議でもなんでもない。
その声が、本来絶対に聞こえるはずの無い声だったから、驚いた。
ゆっくりと声のした方向へ首を向けていく。


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