他BL

□繰り返す雨
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雨が降る。
雨が、降る。
この雨の感じを忘れる訳が無い。
永久に赦される事の無い罪を負った日の雨だ。



この時期は一般的に雨季と称される時期だった。
つまり、雨天の確立が高くなる時期。
河が近い孫呉では、氾濫が起きぬよう少しばかり気を配る季節だった。
そして、甘寧もまた違う理由で気を配る季節だった。

(……またこの日は雨か)

鉛色の空を見上げながら、そんな事を思った。
降り注ぐ水の粒が容赦無く体に打ち付ける。
髪もすっかり濡れ、重力に逆らえなくなってくる頃だった。

「俺があんたを殺した日からこの日はずっと雨だ」

上に向けていた視線を平行に戻しながら、誰に語るでも無く言う。
視線の先には一つの墓標。
彫られた名前は甘寧にとって忘れてはならない名だった。

「……なぁ、凌統の親父さんよぉ」

凌操。
それは既に故人となった凌統の父の名だ。
そして、甘寧が呉に降る前に殺めた武将の名。

「俺はあんたを殺した事を詫びる気はねぇ」

この乱世ではそんな事は日常だ。
いちいち謝っていたら日が暮れてしまう。
それを甘寧は分かっていた。
しかし、“彼”はそれを理解するまでに時間が必要だった。

「ただ凌統を苦しませた事は、詫びるしかねぇ」

凌統にとって、甘寧は仇だった。
そんな凌統を、甘寧は好いた。
そしてその思いは晴れて実る事になったのだが、それは凌統にとっても重大な決断だっただろう。
だからこそ、甘寧はこの日を重く見ている。
自分の大切な人を苦しめるきっかけとなった、この雨の日を。

(あいつの心の荷は、俺が負わせたものだ)
(あいつの心の傷は、俺が負わせたものだ)
(あいつの人生を狂わせたのは、俺なんだ)

雨の音が激しくなった。
遠くで雷鳴が轟く。
いつもこの日はそうだ。
この天候は、二人の心を曇らせる。
だから甘寧は、この日は凌統に会わないと決めていた。
一番不安定な日にさらに不安を与えてやる事は遠慮したかったからだ。
親の命日に仇の顔をみたいと思う遺族は居ないだろう。
だから、会わないでいた。



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