他BL
□繰り返す雨
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「………甘寧」
「……凌、統」
今年の今日までは。
「やっぱりここに居たのか」
「知ってたのかよ」
「分かるさ。毎年毎年俺以外の足跡がここに有れば」
そう言いながら、凌統は甘寧の足元に視線を移した。
甘寧の足がぬかるんだ地面に半分以上埋もれている。
まさにそれは足の跡だった。
「……悪ぃな、親の命日にその仇の面見せちまって」
埋もれた足を引き抜くように、甘寧は足を動かした。
ぐちゃりと言う不快な音が雷に掻き消される。
凌統が何か言ったようだったが、その声も一緒に掻き消された。
「じゃあな」
雨音に消されない程度の声量で言い、凌統の横を通り過ぎる。
通り過ぎる際に、今度ははっきりと声が聞こえた。
「逃げんのかよ」
その言葉に、甘寧の足が止まる。
腕を引かれる様な感覚を覚えた刹那、凌統の顔が目の前に現れる。
その背後で、鉛色の空を切り裂くような閃光が走った。
しめった地面が体中に絡みつく。
押し倒されたのだと、甘寧はようやく理解した。
「本っ当、無責任だよなあんたは!」
甘寧の胸の上で、凌統は拳を握った。
爪が手のひらに刺さってしまいそうな程強く握っていた。
「俺の気持ちなんて全く考えやしない!自分の中で勝手に結論出して、勝手に行動して、勝手にそれで良いと思いやがって!」
「好き勝手言ってんのはお前もだろうが!」
押し倒されるのは性に合わないとばかりに、凌統の体を押し返す。
そのまま立場を反転させれば、泥と化した地面が飛び散った。
「俺がお前の事を考えてねぇ訳ねぇだろうが!」
「だったら逃げてんじゃねぇよ!」
「逃げてねぇ!親の命日に親の仇の顔なんか見たい奴なんざいねぇだろうと思ってお前を避けてたんだ!お前の為なんだよ!」
「だからっ、それが勝手だっつってんだよ!!」
握られていた凌統の拳が、甘寧の頬を殴った。
あまり力は無かったものの、手についていた泥が口の中に入り混み、不快感を齎す。
泥を拭いながら、甘寧は砂利を吐き出した。
「お前、いい加減に、」
「いい加減にすんのはあんたの方だ!」
その時、甘寧は凌統が泣きそうな顔をしている事に気がついた。
実際泣いているのかはこの酷い雨のせいで分からない。
頬を伝っている水は、雨なのか涙なのか。