立海

□君履歴
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次の日の為に予習を進めている最中、自分の携帯が着信を告げた。
携帯を手にする前に時計を見やればジャスト8時半。
その情報だけで電話の相手を悟り、私は着信画面を確認する事なく通話ボタンを押す。

「今日は何のご用ですか、仁王くん」
『柳生、テスト範囲教えて』

悪びれた様子もなく簡潔に用件だけを語る仁王くんに、ほんの僅かに溜息が漏れた。
この時間に仁王くんが必ず電話をかけてくるようになって早1週間。
用件は日によって様々で、どうでも良いような質問から今日みたいにまともな物もある。
強いて言うなら、どれも私でなくて構わないような物だけれども。

「それなら、同じクラスの丸井くんに訊いた方が良いのでは?」
『アイツはあんま信用ならんからなぁ……柳生の方が確実じゃし』
「まぁ貴方が良いのなら構いませんが」
『おう、構わん』
「ではどの教科の範囲が知りたいんですか?」
『全部』

やはり簡潔に仁王くんは言う。
彼はたった3文字で済むかもしれないが、それを伝える私はその何十倍もの言葉を発しなければならない事を分かっているのだろうか。
しかしそんな事を説いている時間はないので、私は彼にメモの準備を促してからテスト範囲の読み上げを開始した。

「……以上です。書き漏らしはありませんか?」
『多分大丈夫じゃろ。ありがとさん』
「お礼は結果で示して下さい」
『…………プリッ』

得意の謎の擬音を発して、仁王くんは電話を切った。
時計を見ると9時少し前。
これまたいつもと同じ時間だった。

「……何なんですかね、本当」

そう独りごちながら着信履歴を開いてみると、ちょうど今日で1ページ丸々仁王くんの名前で埋まっていた。
加えて全て同時刻なのがシュールさを際立たせている。
ただその光景は、決して私を悪い気分にさせるモノでは無かった。
むしろ、それだけ彼との時間が有ったのだと再確認出来て嬉しくなる。

「まさか……コレが目的……?」

ふと思い付いた発想はとんでもないが、あの彼の事を思うと一概に否定は出来ない。
明日にでも問いただしてみよう。
出来れば彼が電話をかける前に此方から。
そして次は発信履歴も彼の名前で埋めてみるのも悪くないと思いつつ、私は予習を再開した。


=END=

→あとがき


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