立海

□銀色のジェラシー
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「嫉妬ですか」

少し身を屈めて耳に近い位置で囁けば、仁王くんの丸まった体躯が揺れた。
思い当たる節は無かったが、どうやらハズレでは無さそうだ。
肩越しにこちらを向いた瞳がそう物語っている。

「……お前さんは誰にでも人当たり良過ぎなんじゃよ」

今度は思い当たる節が多すぎた。
一応『紳士』というキャラクターを演じ振舞っている私は、確かに必要以上に優しさを振りまいている。
その中でも仁王くんには特別優しくしているつもりでは有るが。
はて、一体いつの話なのだろう。

「心当たりは色々有りますが……時期的に考えて約三十分前の事ですかね」

約三十分前と言えば、同じ風紀委員の女子と校内見回りの打ち合わせをしていた頃だ。
その光景を仁王くんが見ていたとすれば、全ての辻褄が合う。
個人的にはそんなに優しく接していたつもりでも無いのだが、客観と主観では違うらしい。

「確かに意外と繊細な仁王くんが傷つくような態度・振る舞いをしていたような気はしますよ」
「……何か言う事ないんか」
「すみませんでした。お詫びと言っては何ですが、しばらくは甘やかして差し上げますよ」

そう言って、仁王くんの銀髪に指を滑らす。
擽ったそうに身を捩る仁王くんの姿が本当に猫の様で、思わず笑みが零れる。

「それだけじゃ許さんぜよ」
「ではどうされたいですか?」
「昼飯、奢りんしゃい」
「お安い御用ですよ」

たかだか千円ちょっと、多めに見積もっても二千円程度の出費。
その位で機嫌が直るのなら、本当に安い位だった。
これなら午後の授業には出席できるだろう。
せめてそれまで目一杯甘やかしてあげようと、再び銀髪を撫でた。
これだから、彼から離れられない。



=END=

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