立海

□天気予報は雨のち君
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「どうした仁王」

傘立ての前で困惑する仁王を不思議に思ったのか、丸井が顔を覗き込む。
その手には私物である真っ赤な傘が握られていた。

「……傘が無い……」
「忘れたのか?」
「いんや……多分盗まれた」
「はぁ!?」

驚きたいのは仁王だって同じだった。
傘を勝手に持って行かれるだなんて、漫画やドラマでしか聞いた事が無い位非日常的だったからだ。
しかしその『盗まれた傘』も、元はと言えば置き去りにされていた陳腐なビニール傘なのだが。

「どーすんだよ。俺も2本は持ってねーし……あっ、一緒に入ってくか?」
「お前さんとは家の方向が真逆じゃろ。それに借りるあてなら有るし」

そのあては半分本当で半分嘘だ。
上手く出会えれば必ず傘を2本持っている相手だが、会えるとは限らない相手だから。
その嘘の部分まで伝わったのかは分からないが、丸井はふーんと納得したらしい相槌を打った。

「だったら良いけどよ。風邪だけはひくなよ」
「どうだか。俺は頭良いからなぁ」
「そんな事自分で言うなよ」

呆れた様子の丸井だったが、やはり気にかかるようで傘を開く直前に後ろを振り向く。
心配要らないと言うように仁王が笑みを浮かべると、傘を開いて雨中に飛び込んでいった。
髪色によく似た赤が灰色の風景に溶け込んで見えなくなると、仁王は小さく溜め息を吐いた。
雨は全く止む気配を見せない。


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