立海

□一夏の神様
1ページ/4ページ


「……暑い……」

俺は本心から思った事を口に出した。
もう何度目かも忘れた。
脳みそまで溶けてしまったみたいだ。

「本当にアナタは暑さに弱いですね」
「俺が弱いんと違う。この暑さが殺人的に異常なんじゃ」

木陰に逃れてはみたものの、その位で本土以上の暑さが防げる訳が無い。
そもそも俺は南の島での合宿なんぞ賛成した覚えは無い。
勝手に幸村が承諾してしまっただけじゃ。
挙げ句の果てに乗っていた船が嵐に見舞われて、強制的にサバイバル生活を余儀無くされた。
………来なければ良かった。

「暑い……暑いー!」
「ただでさえ日陰で休んでいるのですから、あまり我が儘を言わないで下さい。それに、口に出せば出すほど暑くなってしまいますよ?」

俺のすぐ隣に立っている柳生の忠告と言う名の小言が耳に痛い。
大体、なんでコイツや参謀は汗かいてる癖に涼しげな顔なんじゃ。
俺とは体の構成から違うんか。
そう思ったら暑さの影響もあってか、急激にイライラが襲ってきた。

「なら『寒い』って言ったら涼しくなるんか?ならんじゃろ?だったら素直に『暑い』って愚痴った方がストレス発散出来んの!」
「それは一理ありますが……」
「なら口出してくんな。暑い暑いあーつーいー」

完全なるただの八つ当たり。
自分でも最低だと思う。
柳生が困ったように眉を顰めて、溜め息を吐くのが分かった。

「……アナタ程私を困らせるのが上手な方は、この島内には居ないでしょうね」
「誉め言葉として受け取っとく」
「とにかく、水を持ってきてあげますから、ここで大人しく待っていて下さい」

柳生はそう言うと、食堂の方へと走っていった。
徐々に背中が小さくなっていく。
その間にも、太陽光と湿気が生み出すねっとりと絡みつくような暑さは、俺の体を蝕んでいく。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ