立海

□グットナイトラック
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「そうですか……お疲れ様です」
「いやいや。結局は金欲しさだけやから」
「アルバイトなんて大半がそのような理由でしょう?」
「そう言われたらおしまいじゃな……それはそうとして、柳生」
「何です?」
「お前さん買い物に来たんじゃないのか?」

そう仁王くんに言われ、私はこんな時間に外出をした理由を思い出しました。
店内の壁に掛けられた時計を見ると、もうとっくに9時を回った所。
少しばかり話し込んでしまったようです。
仁王くんに一時的な別れを告げ、私は道路側に設けられた雑誌コーナーに足を向けました。
目当ての雑誌は立ち読みをしている方の真横に有りましたので、邪魔にならないように気を使いながら手に取りました。
そして、レジカウンターにて彼と全く久しぶりでない再会を果たします。

「何じゃ?エロ本か?」
「…………本気で言ってますか?」
「おー怖。冗談に決まっとぅよ」

彼は肩を揺らしながら笑い、私の手から商品となる雑誌を受け取りました。
手馴れた様子でレジを通します。

「『月刊プロテニス』が1点ーーって、これもう発売しとったっけ?」
「ええ。発売日が2日程早めになったんです」

そう。私は通常より早めの発売となった『月刊プロテニス』を購入する為に、このような時間に外出していたのです。
テニスプレイヤーとして、早めに情報を手に入れる事にこした事は有りませんから。

「読み終わったらでええから貸してくれん?」
「構いませんよ。遅くても今週中にはお貸しします」
「あんがと。てな訳で1050円になりまーす」

彼は私が初めに店内に入った時の様に、語尾を伸ばした。
その語尾を言い終わる前に、私はズボンのポケットに入れていた財布を手に取る。
中から取り出すのは1050円。
仁王くんの手を煩わせ無いように、ちょうどの金額を差し出す。
几帳面、と彼が呟いた気がした。


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