立海

□仮面を外して
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柳生比呂士はジェントルマン。
そんな事は立海大附属中では常識中の常識だ。
穏やかで礼儀正しく、誰に対しても優しい。
真面目で成績も良い為、教師からの反応も良好。
もちろん、女生徒からの人気も高い。

「……日本も落ちたもんじゃのー」
「何ですか急に」

日が暮れかけた町並みを仁王と柳生は並んで歩く。
会話が途切れた所で、仁王はそんな事を呟いた。

「こんな奴が『紳士』とか呼ばれてる環境が怖い」
「失礼な。私はその肩書きに恥じないよう行動しています」
「表面上はな」

そう言うと柳生はバツが悪そうに笑みを零した。

「ですが、誰だって多少人格を偽る事はあるでしょう」
「いくら俺でもこんな大掛かりな詐欺は行わんよ」

完璧に自分を偽る詐欺なんか。
仁王は僅かに口端をあげるように笑った。



仁王が柳生の『本当の』性格を知ったのは、付き合い始めて2ヶ月頃の事。
多少オブラートに包んで言えば、初めて体を重ねた日。
優しさはいつも通りであったが、口調が全く違っていたのだ。
一人称は『俺』になり、敬語は使う素振りすら見せなかった。
そんな柳生を見た仁王は恐怖を覚える前に、ただただ見とれてしまった。



「いつも素で居ればええのに。楽だろうし」
「楽なのは認めますが、あの性格では世渡りしにくいんですよ」
「そういうもんか?」
「そういうものです」

柳生は、素を見せたのは仁王だけだと言う。
つまり教師や友人のみならず、家族までも偽り続けていると言う事だ。
確かにあの家庭環境の中であの性格はミスマッチだ、と仁王は思った事がある。
と同時に、窮屈な人生だと思った。


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