立海

□君と僕の壊れた世界
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「…大丈夫ですよ。私はこの世界が好きですから」

仁王がどちらの言葉を望んでいたのか、確信は無かった。
間違えていたらどうしようかと考えかけたが、笑みを浮かべた仁王を見て杞憂だと知った。

「そうか、そりゃ良かったぜよ」
「ありがとうございます」
「こんな醜悪な事考えちょるのは俺だけで十分じゃ」

そう言いながら仁王は笑った。
その笑みが自嘲だと気がつくのに時間はかからなかった。

「仁王くん…勘違いしないで欲しいのですが…」

再びカシャンと音が響く。
柳生がフェンスから背を離す音だった。そのまま仁王の正面に回り、しっかりとした視線で見据えた。

「私がこの世界を好きな訳は、仁王くん…貴方が居るからですよ」

先程に仁王が浮かべた笑みとは違い、穏やかな笑顔だった。
仁王は一瞬驚いたが、ぷはっと吹き出した。

「お前さん、良くそんな恥ずかしい事言えるのぉ」
「私は思ったままを言っただけですが」

相変わらずしれっとした顔で柳生は言った。
そして、同じ表情のまま問い掛けた。

「もう一度聞きます。貴方は私の居る世界がお嫌いなのですか?」

柳生の問いに、仁王はすぐには答えなかった。
双方無言のまま、時間が流れていく。
仁王の目には、柳生の背後で吹き消されていく雲が映った。

「訂正。俺も柳生の居る世界は大好きじゃ」
「そうですか。考えが変わって何よりですよ」

その時、チャイムが鳴った。
フェンスの音とは比べものにならない音量が屋上に響いた。

「休憩時間も終わりですね。教室へ戻りましょう」
「俺は引き続き自主休憩ぜよ」
「ふざけるのも大概にしたまえ」

僅かに柳生の目が鋭さを増す。
レンズ越しとは言え、自分と瓜二つの眼に睨まれた仁王は、

「冗談じゃよ」

としか返せなかった。

「では、次は部活の時間にお会いしましょう」
「りょーかい」

静かな屋上から騒がしい校内へと戻る。
仁王はやはりうっとうしいと思ったが、嫌いとまでは思わなくなっていた。



=END=

→あとがき


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