よろずお題部屋

□瞳には
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永い6月が終わり、夏休みに入ったある日。

古手神社の雛見沢を見渡せる高台に圭一はいた。家にいてもやるべきことはあまりに楽な宿題だけという状況で、暇を潰すために有効な方法が散歩しか思い付かなかった結果である。
梨花と沙都子が出掛けて1人で暇を持て余していた羽入と偶然遭遇し、2人でのんびりしていた。

「いい所だよな、本当に。」

圭一が呟く。

「この雛見沢が、ですか?」

「あぁ。ここから見える景色だってすげえし、人がとても温かい。俺がいた都会と同じ国とは思えない。………引っ越してきて、本当に良かったと思う。」

そう語る圭一の瞳はとても澄んでいた。羽入はその瞳を見て温かい気持ちになる。

同時に、何故か辛い気持ちにもなった。

「そうなのですよ!雛見沢はとーっても良い所なのです、あぅ!」

明るくそう言ってみせた。しかし圭一は羽入の言葉には反応せず、顔を覗き込む。

「な、何なのですか?」

「いや、なんつーか……気のせいかもしれないけど、今羽入が俺とは違う世界を見てたような……それに、何か辛そうだったから……」

「……!!」

鋭い圭一に羽入は驚く。誰よりも仲間想いで、そのくせ自分への想いにはあまりに鈍感な彼が自分の心を見抜いたことが信じられなかった。



この1000年、ずっと雛見沢を観てきた。しかし、楽しいことよりも辛いことの方が多かった。特に最近の100年は酷かった。
唯一の家族である梨花は殺され続け、大切な仲間が仲間を信じなくなり、狂気に堕ちる。
傍観者を気取っていようと、辛くないわけがない。

圭一のように『今』の世界を純粋に楽しむには、あまりに沢山の絶望を観てきてしまった。


「………辛かった。話せないけど、ずっと、ずっと、辛かったのです。」

羽入が呟く。

「そうか……無理に話さなくてもいい、俺達に出来ることがあれば言ってくれ。」

圭一の言葉に羽入は少しだけ安堵する。軽く微笑み礼を言う。

無言でいるうち、眠気が2人を襲う。

「眠いな……」

「僕もです。圭一、膝枕してくださいです。」

「……は?!」

顔を赤くし、取り乱す圭一。

「出来ることがあれば言ってくれって言ったのは圭一ですよ?」

「う……わかったよ。」
ニッコリ笑い、圭一の膝に頭を乗せ、羽入は眠り始めた。

(さっきの瞳……本当に辛そうだったな……)

その瞳を曇らせまいと誓いつつ、圭一も眠りに落ちた。

FIN
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